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『夜のピクニック』再読。

『青春』っていう陳腐な言葉ではあまりにも軽薄に映ってしまう。もっと雑多でごちゃ混ぜの感情は高校時代の美しくほろ苦い記憶たちであって、確かに当時は若かったけれど、その時は精一杯の時間を感じていた・・・そんな一人一人が心に大切にしまっている想いと、この物語の流れる時間とが交叉して共鳴する・・・だれもがこんな素敵な夜を歩いたわけではないけれど、高校三年間の流れていた時間は同類であり・・・だからこそ多くの読者が共感し、語り継がれ『高校生だったら一度は読んどけ!』と謂わしめる作品に昇華したのだろう。

この物語の屋台骨である『歩行祭』(正式名称は鍛錬歩行祭)著者の出身校である学校行事がモデル(ほとんどそのまま)となっていて、こーゆう肉体的に辛い行事ほど、何年か後になって振り返ると心にやさしく響いてくるよねー。
茨城県立水戸第一高等学校 歩行祭
夜間も歩き続けるということもあり、夜の視認性も考えられたのか学校ジャージは白で統一。生徒全員参加だから千人以上が列をなして歩くという、もはや軍隊の行軍ですね。

どこの学校でもマラソン大会とかはあるけど、一昼夜をかける行事は珍しい?高校生のころの友達と過ごす夜は特別だから、肉体的に辛いけどこれは良い思い出になるよ。

物語の題材としては飛びっきりだと思うな。『夜のピクニック』として挙げた物語以外にも、様々なドラマがそこかしこで繰り広げられていたに違いない・・・体験していない人には憧れの行事ですねー。

物語は二人の主人公、甲田貴子と西脇融が<歩行祭>を舞台に歩み寄ろうとする心の機微をまっすぐに見つめる内容だ。





二人は異母兄弟という境遇でありながら同じ高校で顔を合わせ、三年生で不幸にも同じクラスになってしまった。融の父親が不倫してできた子供が貴子なのである。融も貴子もお互いを意識するあまり一言も言葉を交わしたことがない。
歩行祭が終われば生徒たちは皆大学受験一本で、二人が言葉を交わすチャンスは二度と訪れないだろう。
貴子はある『賭け』を心に秘めて歩行祭に挑む決意だった。

ついにきたか、この日が・・・貴子は眩しそうに空を見上げる。

高校最後の行事。

親友の杏奈から届いた葉書を思い出す。歩行祭はもう一回参加したかったと綴ってある。
帰国子女の杏奈は、もって生まれた闊達さとアメリカナイズとされた環境で育ったせいか、逆に日本的システムの一種理不尽にすら思える因習めいた伝統にとりわけ憧れを抱いていた。
去年の歩行祭のときも人一倍はしゃぎ、しきりと感動していた。



みんなで、夜歩く。たったそれだけのことなのにね。
どうして、それだけのことが、こんなに特別なんだろうね。



杏奈の声が、今も耳に残る。


一年生の頃、腹痛を訴え路肩で動けなくなっている三年生男子がいた。教師たちが、後ろから来る救護バスに乗るようしきりに説得していた。だけど彼はどう見ても重症なのに、頑なに首を左右に振り続けていた。
歩く、みんなと歩く、と脂汗を流しながら必死に立ち上がり、それでも数メートルも行かないうちに苦痛のあまりしゃがみこんでしまう。
友人に肩を支えられてようやく立ち上がったとき、彼は泣いていた。

今にして思えば彼の気持ちはよく分る。
高校生活最後のイベントを途中で一人だけやめてしまうなんて、考えるだけでぞっとする。

朝の八時から翌朝の八時まで歩くこの行事は、夜中に数時間の仮眠を挟んで前半が団体歩行、後半が自由歩行と決められている。仮眠後にスタートする自由歩行は仲の良いものどうしで語らいながら、高校時代の思いで作りに励むのが通例だ。誰と一緒に歩くかは、殆んどの生徒が事前に決めている。

美和子とは今年クラスが違ってしまったけれど、自由歩行の時間、貴子は美和子と一緒に歩くことにしているのだ。

校長先生のゲンナリする挨拶・・・

応援団長も掛け声で校歌斉唱

『フレーぇぇぇ、フレーぇぇぇ、きーたーこう!』

生徒達が拳を振り上げシュプレヒコールを終えると、先頭のクラスが歩き始めた。

そして貴子たちの3年7組も歩き始める・・・<ただいま乳酸大量製造中>というスローガンを掲げた幟を掲げて、明るい秋の日差しをいっぱいに浴びながら、貴子の<賭け>はもうあと戻りできないのだ。





やーもうっスタートするまでに完全に感情移入しちゃうよねー。
自分が参加する気持ちになっちゃってる(笑)
夜を徹して高校時代を振り返る・・・友達と語らうなんて、考えただけでキュンキュンしちゃう。
修学旅行の『あの夜』が朝まで続くんだ!
高校生の時しか味わえないこの友達と語らう徹夜は格別で、こんな楽しいひとときは二度とやってこないよ。これは忘れられない。

誰と一緒に歩くか?とかもすっごい絆が生まれるし、ワクワクするし、そのドキドキ感とか半端ない。
あとクラスに一人は必ず存在する超お調子者とか(この物語では自称ロックンローラーの高見くん)、<あるあるネタ>じゃないけどワタシも思い出すなー・・・歌謡曲を歌い続けて歴史の授業を一時間潰した同級生のこと(笑)
そうそう、映画も良かったよね。
夜のピクニック 映画 主演はいまや押しも押されぬスター女優になった多部未華子さん(中央)

この映画の風景・・・映像美はとてもよかった。海が見えてくる高揚感とか、夕暮れから夜になるシーンとか、星降る夜はちょっと作り過ぎ(笑)だけど、これをみるだけでもこの歩行祭に参加してる気分になる。

まー1000人に上る生徒が歩くシーンは壮大で、実際の高校からもエキストラで参加!まさに本物の映像ですね。
映画も、小説も盛り上がりに欠けるっていう評価が多いんだけど、このお話に限っていえばそこじゃないんじゃないかな?
この高校生だった時間の描写が大切なのであって、確かに何かが劇的に変化するわけではないけれど、温かい気持ちになれるし、ちょっとした感動が山ほどあって、それは些細なことの集まりなんだけれどもそこを感じて欲しいんだなー。



また、いつの日にか読みたい本。
いろんなほろ苦さに身を委ねてすごいリフレッシュできる。
懐かしいだけではなくって、普段の生活で忘れかけている気持ちで一杯になるの。
高校生が読んでもいいけど、その時点での理解度は半分だなー。
大学生になってから、就職してから、こどもができて、そのこどもが中学生になるころとか、読むたびに発見がある。・・・半分っていうより高校生が読む100%にプラスされてあらたな発見があるって感じかな?

本のキャッチコピーは難しいな。


大切な友だちと、どこまでも歩きたい。


読むたびに、歩行祭が終わっちゃう!って思っちゃう・・・。
この時間がいつまでも続いて欲しいとか、疲れてないから言えるんだけどね(笑)

夜のピクニック

夜のピクニック






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2011.09.02 / Top↑
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