小説レビュー その他もろもろとか。

8月の読書メーター
読んだ本の数:10冊
読んだページ数:4041ページ
ナイス数:1535ナイス



夜のピクニック (新潮文庫)夜のピクニック (新潮文庫)
不朽の名作。『歩行祭』というイベントは、青春という陳腐な言葉では語りつくせない程の臨場感とノスタルジックな感傷を誘い、眩しいほどの輝きを読者に届けてくれる。高校生活を共に過ごした三年間を、振り返りながら過ごすこの特別な夜は、悩みを打ち明ける最高のシチュエーションだろう。貴子も融も、美和子も忍も、それぞれの思い悩む姿が、皆かわいくて仕方ない。卒業生が懐かしく語るこの歩行祭・・・決して忘れることはないだろう。この夜のピクニックは、高校生活という限られた時間に、親友たちと体験した美しく苦い想い出の象徴だからだ。
読了日:08月31日 著者:恩田 陸



死神の精度 (文春文庫)死神の精度 (文春文庫)
『死を司る』という負の印象を払拭したキャラ設定に目から鱗。六編からなる短篇集で死神である『千葉』が大筋を進行させていく。死神の視る人間の生に対する俯瞰の映像は、ときにコミカルで、それでいて鋭く真髄を抉られる。『死んでも死に切れない』は理解の範疇を超え『運が悪いのは死神に選ばれたおまえだ』と呟く。<精度>の狂いからか最終話で死神は晴天を拝むことになるのだが『眩しいのと嬉しいのは似ている』という言葉で読者は不思議と温かい気持ちに導かれる。『私には関係のないことだ』などという死神の呟きが聞こえてくるようだけど。
読了日:08月26日 著者:伊坂 幸太郎



告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)
再読。告白により事件の全貌が明らかになる物語。語り部の独白はどれもが常軌を逸していて、淡々と流れる冷酷な時間は救われぬ結末へ向かっていく。人間の悪意を次々と魅せつけられ、嫌悪感に囚われる読者は疲弊し、どの登場人物にも共感を覚えられないだろう。そんな著者の謀ったような潔さこそがこの小説の醍醐味と感じる。修哉、直樹、美月など、その短絡的な行動は幼稚の範疇を超えることはない。それゆえ犯罪に結びつくような結果を招いていく。森口の制裁は自身の落魄も厭わない悪意であり、最後の一行に魅せる切れ味に喝采の拍手を送りたい。
読了日:08月23日 著者:湊 かなえ



椿山課長の七日間 (朝日文庫)椿山課長の七日間 (朝日文庫)
コミカルな味付けで少々軽い読み口に紡がれているけれど、愛し愛される事を熟慮させ、生死の意味を深く問う小説と感じた。ありがちな設定であっても浅田さんの手に掛かると、途端に深みのある洞察力豊かな物語に変貌するから不思議だ。個々の登場人物が現世への未練を軸に、不思議な繋がりを以て残された時間を交錯させ、やがて収斂されていくというストーリー。男気と優しさに溢れる椿山の父親や武田が、人生を賭してまで放つ行動力に自然と感情が揺れてしまう。優しさとは、常に孤独と背中合わせの深い情愛なのであろう。最終章の結びに再び感涙。
読了日:08月20日 著者:浅田 次郎



ぼくのメジャースプーン (講談社文庫)ぼくのメジャースプーン (講談社文庫)
初読では<力>を使う部分に最大の関心を奪われていたが、再読することで『ぼく』と『秋先生』の澄んだ息づかいを感じ取ることができた。罰を与えるという行為自体は利己主義でエゴイズムである。そうした神の領域を冒す『ぼく』が陥った、人間としての矛盾に対して抗う心の葛藤に深く共感する。『自分のためにしか涙は出ない』という呪縛に囚われた『ぼく』が選んだ最後の言葉は、鬱積したワタシの感情を極上のカタルシスに誘い、胸を撫で下ろす事ができた。それにしても『秋先生』が考えた『今から十年後・・・』という因果応報の言葉が怖すぎる。
読了日:08月17日 著者:辻村 深月



骨音―池袋ウエストゲートパーク3 (文春文庫)骨音―池袋ウエストゲートパーク3 (文春文庫)
シリーズ三冊目。表題作『骨音』を含め四篇の短篇を収録。中でも『西口ミッドサマー狂乱』は抜群に読み応えがある。この物語の主人公トワコの今を生き抜く強い意志が心に響いてやまない。切なさと力強さが同居すると、どうしてこうも魅力的に映るのだろう。圧巻は西口公園の広場を舞台とする大掛かりな野外RAVEの仕掛け。陶酔する若者、横行する薬物売買、退廃的な雰囲気と爆音の中で疾走するマコトの恋路を応援せずにいられなくなる。マコトが感じる池袋や人物に対するフラットな感覚が実に新鮮で、今後のマコトが成長するする姿に興味深々だ。
読了日:08月15日 著者:石田 衣良



あの頃の誰か (光文社文庫 ひ 6-12)あの頃の誰か (光文社文庫 ひ 6-12)
久々に東野作品に触れる。著者曰く<訳あり>の短篇八編を収録。バブル時代の面影を残す作品や、長編小説『秘密』の原型を覗くこともできる。それぞれの作品は相応の面白みがあるが、この作家さんは長編でじっくりと人物描写を施した味わい深い物語が似合うのではないか。今に到る著者の活躍を考えると、短篇としての切れ味に鋭さが不足しているように感じてしまう。『レイコと玲子』『二十年目の約束』が良い。『秘密』となる原型の『さよなら「お父さん」』は、やはり長編での味わい深さに軍配が上がるが、読者として興味深く読めたことは確かだ。
読了日:08月12日 著者:東野 圭吾



クラリネット症候群 (徳間文庫)クラリネット症候群 (徳間文庫)
二編の不思議な物語を収録。『マリオネット症候群』は、輪廻転生をコミカルに描いた作品。ラノベの空気感満々で、軽妙なタッチは殺人事件をもサラッと流し、脳内?におけるコメディに終始する。表題作の『クラリネット症候群』は、あるきっかけで<ドレミファソラシ>の音が聞き取れなくなる主人公の不思議な現象を軸に、コミカルな展開が待っている。・・・これは読みづらい(笑)せめて抜けた音はカタカナ表記にするとかの工夫で回避して欲しかった。両作品とも十代の若者対象に描かれたのか、深い内容はなくお笑い中心。時間潰しにお勧めの一冊。
読了日:08月10日 著者:乾 くるみ



アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)
主人公が活躍しないのに、不思議と心揺さぶられてしまう。そんな圧倒的な情感と人間に対する情愛が巻き起こす奇蹟の時間にぐうの音も出ない。散りばめられた数々の伏線を読者に気付かせる筆力は、後半に起こる回収劇の高揚感によりいとも簡単に証明される。椎名と河崎、琴美と河崎とドルジ、二つの物語が繋がり明かされる様子をミステリーを交えて描きながら、同時に二年という時間がもたらす微妙な変化をも表現。タイトルに導くコインロッカーでの二人の描写が琴線に触れ、二年分の情景が一気にロールバックして脳裏を翳め、絶妙の読後感に浸った。
読了日:08月07日 著者:伊坂 幸太郎



凍りのくじら (講談社文庫)凍りのくじら (講談社文庫)
再読。周囲を冷徹に達観視する主人公理帆子独特の優越感に痛く共感。これは誰もが持ち得る感情のひとつと感じてならない。自分より愚者を探し精神的優位をみつける姿は、ある意味人間の本能だと云える。ただ改めて文章で綴られると、何故か強烈な個性として浮かび上がるからまた不思議だ。そして肝とも云える『ドラえもん』への熱い想いに感服。著者の<藤子先生>への傾倒は底知れず、数々の挿話に深い世界観の解釈と愛情を垣間見ることができる。きめ細かい伏線と後半の回収劇は8章から10章。読後に感じるタイトルの秀逸さには本当驚かされた。
読了日:08月03日 著者:辻村 深月

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2011.09.01 / Top↑
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