告白 湊かなえ著

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原作を読み、映画を観て、

『もう二度と読まないな』

と思っていたけど、また読んでみた(笑)
初読のときは、登場人物全員が大嫌いだった。そしてそれは今回も変わらず。
ただ、再読ということもあり多少冷静であったワタシはよーやくこの小説を受け入る心構えができたようだ。
このまったく共感に値しない登場人物たちの言動、行動こそが著者の策略でありこの物語の肝であろうと。

話題作であったのでご存知の方も多いと思われますが、登場人物それぞれの<告白>で、事件の全貌が浮き彫りにされていくという物語。




教師である森口の独白からスタート、愛娘の事故死が実は他殺でありその犯人はこのクラスの中にいると糾弾される。少年A・Bとその場では称されるが、その実体は修哉と直樹だ。森口は、クラス全員で飲むことが強制されている牛乳から修哉と直樹の牛乳パックを選び、自分の夫でありHIV感染者でもある桜宮正義(通称世直しやんちゃ先生)の血液を混入したと締めくくる。二人とも牛乳を飲み終わった後に語られた恐ろしいまでの制裁の一言だ。
その後、同じクラスの学級委員長の独白が続く。森口の目に触れるよう文芸誌への投稿という形で綴られた文章はまた少しずつ現実から逸脱していく様子が克明に記されている。美月は『ルナシー事件』という青酸カリを使った事件の犯人と自分とを重ね合わせ陶酔していたのだ。この独白により、美月と修哉の関係性が明らかになる。
そして直樹の母親が綴った日記をもとに姉が真実を探る形で告白が続く。
母親が息子を溺愛している様子が日々の日記から感じられ、その狂っていく狂気の時間が重く圧し掛かってくるのだ。
それに答えるかのように、直樹が精神病棟で空想?夢想する出来事として直樹からみた事件のあらましが語られる。母親の思いと息子の思いのすれ違いが収斂し、一つの悲哀として完成され同時に愚かな人間像をも浮き彫りにする巧みな描写で表現されている。
そしていよいよ真打登場、修哉の告白だ。
何故このような事件に到ったかが修哉の独白により明らかになっていく。不遇な家庭環境、それによる極度のマザコン体質など複雑な要素を絡めながら事件の全体像がはっきりとする。そして自らを賭した大掛かりな仕掛けを以て母親に対する愛情をアピールする劇場型事件に突き進む。

最終章・・・森口の凄惨なまでの仕打ち・・・驚愕の制裁が修哉を襲うまで物語りは目を離せない・・・




それぞれのモノローグはどれも常軌を逸する内容に変貌していく。登場人物はみんな狂っているのだ。
それゆえ、この小説を読んだ読者は登場人物に共感するなどありえないだろう。
<あーわかるわかる!>なんて人は犯罪予備軍になってしまう。確かに人間だから心の奥底に闇があり、残酷な場面を想像して狂喜乱舞するということは否定できないけれど、それと共感するというのは別次元の話だ。
間違いなく登場人物は好きになれず、読者のほとんどは嫌悪感を露わにするだろう。
それこそ著者の狙いなのだ。謀られた!とでも云うべきか(笑)

最後の一行まで救いの言葉はない。この切れ味は抜群だろう。ハッピーエンドなんてクソ喰らえ!・・・とまで著者が思ってたかどーだか知らないけれど、この物語はどん底で終止符を打つ。誰も救われないのだ。

この小説は映画化されて映画も観たんだけど、映画を観たことで想像していた場面が実体として吸収でき<なるほど>と腑に落ちた思いがある。確か当時は小説より映画が勝る珍しい作品だと賞した記憶がある。
映画は、森口という冷酷教師を『松たかこ』さんが熱演(冷演?)熱血教師ウェルテルに『岡田将生』さん、狂乱の母親役に『木村佳乃』さんだった。
映画はもちろんすばらしく、それぞれの役者さんの際立った演技はどれも恐怖と笑い(ウェルテル)を誘う極上の出来だ。では小説が劣るかというと、今はそうでもないなって気がしている。文字だけの冷酷な時間に浸るのも悪くないなと思えるのだ。
それぞれの登場人物に共感できないイライラ感が自分の中で消化できたということなのかな(笑)

告白 映画ワンシーン 

『告白』ぴあ映画生活より

さて、あとがきでは、この映画のメガホンをもった中島哲也監督が対談と言う形でコメントを寄せていますが、このひとりひとりの告白にはそれぞれの嘘が含まれているとばらしています。
告白を素直に読んではいけないと。それぞれの告白の辻褄が合いすぎるのは不自然すぎると疑念を抱いた訳ですね。伏線とその回収にも嘘があるというのです。
初読ではわからなかったけど、再読してみると、はっきりとはしないながらもその雰囲気は感じ取れた気がしますね。森口先生の悪意が半端ない感じは悪く考えると泥沼にハマりそうで怖いのですが・・・。




本のキャッチはどーかなー


現実は告白により明かされ、真実は告白により闇に葬られる。


こんな感じなんです。

告白

告白 

ちなみに以前読んだ時の感想はこちら↓↓

2010/5/18 告白 湊かなえ著

2010/6/21 映画『告白』観ました
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