小説レビュー その他もろもろとか。

『鉄道員』とか深い感動の嵐に身を任せる作品ばかりを読んでましたが、この『椿山課長の七日間』はユニークな設定(ベタですが)でコメディ的な要素も含んで、<ただ泣かす>ではない読み物に仕上がってますね。

といっても勿論<浅田節>は健在で、要所で締めて泣かせにくる(笑)感じはさすがの一言に尽きますね。




働き盛りの中間管理職、デパート婦人服飾部売場担当課長46歳椿山和昭は、『夏のグランド・バザール』に向って猛進していた。この大型セール初日に大勢の予測がついてしまう。この七日間のセールが無謀とも思える上半期の予算に大きく関わることは重々承知している・・・前年の売上げを大きく割り込みながら営業を続ける売場担当課長は毎年首を挿げ替えられながら奮闘している。例に洩れず、課長椿山もここで失態を冒したら後はない。背水の陣なのだ。

そんな椿山は疲れきった身体に鞭打ち取引き先との会食に臨む。初日は快挙ともいえる予算達成。今晩はメーカーとの結束をさらに強めて、この戦いの勝者になるのだ。

しかしデパートからほど近い料理屋の座敷に到着した椿山の身体に異変が起きる。
お酌を受けた椿山は突然の吐き気を覚えた・・・

『ちょっと失礼』

椿山は席を外し洗面所へ、。毒のような汚物を吐き散らしながら携帯で部下の嶋田を呼ぶ・・・

『すぐ来てくれないか。ちょっと気分が悪い。かわってくれ・・・』

大丈夫ですかという嶋田を制止ながら椿山は続ける・・・

『俺のことはいいから三光に頭下げてくれ!一万円均一のスーツをありったけ出させるんだ!ここにかかってるんだ!』

そして店の名を告げると椿山はその場に崩れ落ち身を横たえた。汗が急激に冷え声も出ない。扉の隙間から手を振って仲居を呼ぶ・・・救急車!という声が遠くに聞こえる・・・動かしちゃダメだ・・・脳溢血かな・・・心臓かも知れないぞ・・・やばいよこれ・・・三光の社員が椿山のか細い声に気がついた・・・

『万均・・・たのみます・・・あるったけ・・・』

ほんの一瞬女房と子どもの顔が瞼を過ぎり、急激な闇に堕ちた




禿げ上がった中年サラリーマンの悲劇とでもいいましょうか。
過労死はどこの会社でも起こりうる真実だと思いますね。ワタシなんかも残業200時間は当たり前だしね。

で、この死んじゃうのが本題ではなく(笑)この期に起こる出来事が重要なのだ。
椿山は極楽浄土へと向かう途中の審査機関で下界に未練があると申し立て、期限付きで下界で過ごすことが許されるのだ。
途中の審査機関とかがやけにビジネスライクな雰囲気で、最近の小説で言えば『KAGEROU』的な雰囲気を醸し出している。ここでのやり取りで偶然知り合った『やくざの武田』と聡明なこども『根岸雄太』も不服申し立てにより下界に舞い降りる。
下界に赴くには生前とは似ても似つかぬ風貌(別の身体が用意される)で、サポートセンターと繋がる携帯や、必要なものが何でも出てくるバックなどを持たされる。

そんなこんなで、椿山は遣り残したデパートの行く末を見守り、家族と、過去に付き合った女性との別れを経ていくという物語。勿論伏線が多数あり、武田や雄太の人生も複雑に絡んでくるというオマケつきだ。

読み終わると溜め息が出る。
人生そんなに振り返っちゃいけないんだなぁ・・・なんて思う。
多分死んだときは遣り残したことが山ほどある気がするんだろうけど、実際には何とかなっちゃう訳だし、死んじゃったらどうにもできない訳だし。
『悔いを残さず』とか、そんなの絶対無理だと思うけど、あんまり振り返るのはよくないなという教訓になったな。

まー禿げ頭の椿山が現世に戻る際艶やかな美女の身体になる訳だけど、目覚めた途端身体が女性な訳ですよ!取りあえず身体を隈なく弄るあたり男の本能というか願望というか(笑)『こんなことに大切な時間を使ってしまった!』と悔い入りながらも更にその後小一時間弄ってしまうあたりに、苦笑と中年男性の悲哀を感じますね。

それにしても、浅田次郎の紡ぐ家族愛は泣けますねー。
親を慕う子ども、子を思う親、それぞれが言葉に出さずとも存在する。
特に任侠ものの輝きが半端ないですね。著者はこの手の任侠ものが好きなのかな?こーゆうやくざ絡みの話は一際涙を誘いますね。

本のキャッチは

極楽浄土への道のりは、険しく温かい。

椿山課長の人間味溢れる奮闘ぶりに熱い涙が誘われますよ。

椿山課長の七日間

椿山課長の七日間
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2011.08.24 / Top↑
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