小説レビュー その他もろもろとか。

こちらも久々、辻村さんの『凍りのくじら』を再読してみました。

辻村さんの作品に最初に出会ったのがこれで、あっという間に虜になってしまい文庫本は全部制覇してしまいました。ハードカバーはまだ読んでないけど・・・

主人公の理帆子の性格が嫌いな読者って結構いるんだけど、ワタシ的にはこの蔑んだ感覚にとっても共感する!だからのめり込んだんだけど、この頭の良い・・・勉強ができるとか知識が豊富とかそんな人が、その人のレベルに合わせてあげるっていう見下した視線が強烈な個性なんだよね。それでいて心の底から信頼できる人がいないっていう誰にもいえない疎外感とか、そーゆうのって実は誰の心にも少しくらいあるんじゃないかな?って思う。

例えば親友・友人との飲み会と、会社の同僚との飲み会と、会社の新入社員との飲み会と・・・その時々で話題も違うし、その話題のレベルに合わせたりすると思うんだ。少なくとも会社の同僚となら会社の運営について活発な意見交換ができるけど、新入社員にはそんな話できないし『働くって大変なんだよ』みたいなその子らに合わせたレベルでの話になると思うんだよね。まー見下してる訳じゃないけど、この本に出てくる主人公と似てる心持ちだとワタシは感じてしまった。




『美也、バカじゃないもん。ナオヤ、ひどい』

『じゃ、お前、日本の政治家の名前十人言ってみろよ』


彼らの横に腰を下ろしながら、私はこの中で自分一人だけが<違う>ことを思い出していた。優越感も疎外感も、そのどちらも伴わないようでもあるし、そのどちらの要素も多分に含んでいるようにも思える感情の動き。これは諦めに似ている。目の前のこの会話はあまりに底辺に過ぎるけど、私はこの場を楽しむには少し頭が良すぎる。

彼らにわからない言葉や熟語は使わない。必要以上に自分の意見も言わない。意見や感想っていうのは、それを受け止めることができる頭を持ってる人間相手じゃなければ上滑りして不快なだけ・・・そうやって自分一人が<違う>ことは絶対に伏せるように私はしている。

私が考える頭の良さとは、多分その人の今までの読書量に比例する。勿論この側面からだけでは簡単に測れるものではないが、私の場合はそこが大事。大人は漫画を馬鹿にするけど、その漫画だって満足に読めない子たちが多いことに気付いているだろうか。文字を読むことに圧倒的な拒絶を示し、文章を読むのに物凄い時間を要するのだ。そんな彼らを前に私は愕然としてしまう。

『失敗してもって、失敗してからじゃ遅いでしょうに』

そんなことを言う母親にも、私は心の中で、<お母さん、残念だけど、私はもう自分があなたより頭が良くなってしまったことを知っている>という文章を用意していた。


私はドラえもんの作者藤子先生のSF(少し・不思議)という言葉遊びに習って、人を観察してはネーミングを与えていた。
よりよい男を求めて飲み会を渡るカオリさんは(少し・ファイティング)かわいい美也ちゃんは(少し・フリー)、何かの制約を受けてる気がしない。私の母親は(少し・不幸)、そして、そんな私は Sukoshi・Fuzai(少し・不在)だ。




ちょっと長くまとめましたが、何となく主人公理帆子の性格が捉えられたんじゃないかと思う。
まーこの性格の主人公だけれでも、不思議と最終章に至るまでにぐんぐん共感していく。すごい筆力だと思う。

そしてなんといってもこの物語の肝は『ドラえもん』だ!
すべての章がドラえもんの道具に准えた内容になっている。『もしもボックス』とか『カワイソメダル』とか、ドラえもんの道具の説明を交えながら進んでいくのだ。
これは面白い。面白すぎる。もちろんその道具がわからなくても章の始めに説明してあるから大丈夫。で、本題は、理帆子と別れた元彼の若尾との関係をメインに、高校時代の不思議な体験を理帆子が振り返るという物語だ。

特に若尾の壊れっぷりが尋常じゃない。所謂ストーカーに変貌していくのだけれど、その状態から抜け出せない女子特有の雰囲気を如実に描写していて<上手いなぁ>と感動すらしてしまう。

号泣ポイントとしては、やっぱり出来上がった写真集の件かなぁ。
再読なので中身を知ってる訳だけど、知ってから読むとまた深い意味がわかってきてウルウルする。
ここは読んだ人のお楽しみだねー。

総じて、この辻村さん、青春の機微を描かせたらやっぱピカイチですねー。
特にこの『凍りのくじら』は、ドラえもん好きの著者として相当チカラが入ったんじゃないかなー。のちに別の小説で活躍する理帆子や郁也、ふみ、などを輩出した作品なので、これを先に読むことをお勧めしますね。

本のキャッチコピーは、

光を求めて、わたしは Sukoshi・Fujyou(少し・浮上)する

SF・・・なんでもありかー!!

凍りのくじら

凍りのくじら
関連記事
2011.08.04 / Top↑
Secret

TrackBackURL
→http://mityururu.blog136.fc2.com/tb.php/301-ef1ef47d