小説レビュー その他もろもろとか。

還暦を過ぎた浅田さん、実は今回初めてちゃんと読むのです。
実際には『短編コレクション』のような、多数作家さんの作品が掲載される短編集なんかで触れたことがあるのですが、やっぱりちゃんと読んでみようかなー・・・と。
年齢的にだいぶ差があって、難しい言い回しの文章にも不慣れなワタシに、果たして高尚な文章・文学をを理解できるのかどーか疑問だったり、ジェネレーションギャップ的なものも実はあるんじゃないかと、うらうらしたり。
まー読んでみれば、どーにかぼちぼちついていけそうなので、『鉄道員』(ぽっぽや)とかの名作にもチャレンジしたいと思います。
今回の『月下の恋人』は短編集であり、全11篇収録されています。
その中から一番気に入った『忘れじの宿』から・・・




雪見障子を上げると、歪んだガラス越しの竹林に迷い蛍が舞っていた。
女の細い指が、まさぐる間もなく確かな壺に触れた。眠るでもなく覚むるでもなく、杉田は雨音に身を委ねていた。

「せっかくやから、灯ぃ消しまひょ」

座敷の灯りが落ちると、俯せた体が闇の底に沈みこんだ。よほど疲れているのだろう。
枕灯が女の横顔を窓に映しこんだ。色気のない藍の作務衣を着ているが、薄化粧をした顔には矜恃が窺えた。歳は杉田とさほど違うまい。このごろでは同じ歳ごろの女に色恋とは無縁の近しさを感じるようになった。
女は仲居をしながら旅の整体師の先生からマッサージを教わったようだ。ひなびた時間が過ぎる。

「お客さん、忘れとうても忘れられへんことがありまっしゃろ」

夢ではない、女の指が左の腋の一点を僅かにつまむだけで疼痛が走った。

「ここは忘(ボウ)という壺どすねん。忘れとうても忘れられへんことは、ここで痼(しこり)になります」

「ほぐしてしまえば、きれいさっぱり忘れはりますえ」


と女は囁いた。

ここの宿の名は「忘庵」・・・忘れじの宿という意味か・・・
杉田は逝き別れた妻のことを考えていた・・・ 




実に高尚な重厚な大人な(笑)まーわかりますよね・・・難しい漢字とか熟語がいっぱいで唸る唸る(笑)
例えば『薄化粧をした顔には矜恃(きょうじ)を窺えた』のキョウジは、<自分の能力を信じて抱く誇り>という意味であり、これ知らなかったなー。

だいたいここに入力するのも変換できない漢字ばっかりで(笑)まーだからこそ文字と言葉の魅力を再確認できるんですけどね。旧字体はなんか趣を感じるし。

ちなみに『雪見障子』とは、障子の一部分にガラスがはめ込んであり、景色を楽しめるよう設計されているこんなやつ
↓↓
雪見障子 
旅館とかはだいたいこのタイプ。最近はハウスメーカーが和室によく取り入れてますよね。

さらに著者曰く『どうしても季語を入れたい』というコダワリがあるらしく、それは現代小説で忘れられがちじゃないかなと俯瞰してらっしゃたりして・・・この冒頭の部分『ガラス越しの竹林に迷い蛍が舞う』という一節で『夏』を描写してるわけですね。現代小説は・・・というか人間自体の季節感覚が乏しいと著者は捉えていて、夏はエアコン、冬は暖房など、食品も一年中なんでも手に入るし、そーゆー感覚で書かれる小説に季節感は不必要になってしまったんじゃないかと・・・書き手も読み手もそこにコダワリが弱くなって、このままでは季節感が衰退してしまわないかと著者は畏れ心配もしています。うーん確かにそうかも。うん。

まー小説界の重鎮なわけで、人間を詠ませたら随一との呼び声高い著者浅田さんならではの、深い人物描写による情感や心の機微が、短篇ならではの切れと相俟ってすいすい連続では読み進められない・・・一作品ごと余韻に浸ってしまう感じです。思った以上にオカルト的な霊描写的なものが面白かった。

本の帯なら、

思い出す人と季節は、結ばれている。

全作品をカバーするとこんな感じだと思いますよ。

月下の恋人

月下の恋人
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2011.06.24 / Top↑
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