小説レビュー その他もろもろとか。

この著者の、他の作品をよく知らないので<砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない>だけ知ってる こんな人だったのかと改めて驚きました。ライトノベルの『GOSICKシリーズ』というゴスロリ系美少女萌キャラのアニメな印象を持っていて・・・でも実際は見たことないんですよねー(笑)だからワタシの中では、人間の情念を深く探求し、漆黒に塗れる奈落からそっと物語を掬い上げ、丹念に紡いでは浄化させるような、そんな作家さんという位置にいらっしゃるのです。

で、この『私の男』も然り、養父と娘の禁忌を題材に、依存する孤独を背徳的に描いた物語なのであります。




どうしてこんなところまでついてきてしまったのか、美郎は思っていた。




会社の受付ではあまり目立たず、ひっそりと佇んでいる腐野 花。以前から、何故か興味が湧いていた美郎は、花と何とか約束を取り付けることに成功、銀座で食事をすることになった。
花は見た目地味な女の子であったが、しっかりしているという印象もある。いままで出会わなかったタイプなのだ。そして、とにかく謎が多く、それが魅力の発端かもしれないと自分を分析していた。何よりも興味は<凶悪なヒモ>がいるらしいという噂だ。

しかし花と話し始めると、その謎はいとも簡単に明かされることになる。義父という言葉が花の口からこぼれ落ちた。
花の旧姓は竹中という。1993年7月に発生した北海道南西沖地震により当時9歳だった花は、奥尻島を襲った巨大津波に飲み込まれ、自分以外の家族すべてを失ったのだ。そのときに身元を引き受けてくれたのが親戚にあたる腐野淳悟で、花はいま腐野の姓を名乗っているという。
花は抑揚のない声でぽつぽつと語ってくれる。

「わたしのお父さん・・淳悟は最低で、でも最高なの。もう十二年、誰よりもわたしを大切にしてくれた。わたしはお父さんが大好き・・だけど私は大人になった。このままいつまでも一緒にいたいけど、本当は離れたいのかもしれない・・」
「淳悟は、むかし自分のお父さんもお母さんも亡くしたの。海と陸で。だから、わたしたちはみなしごの親子なのよ」

酔った花を自宅に送るため美郎もタクシーに乗り込んだ。やがてタクシーは東京拘置所近くへ辿り着いた。
その拘置所の灰色の壁にもたれかかった影に煙草の火が灯っていた。ゆっくりと近づく影・・「ただいまぁ」と花が呟くと、男はコートを脱いで花の肩にかけた。そして成り行きのまま、男・・淳悟さんと花のあとを追って寂しいアパートにお邪魔することになる・・・。


少し会話をしてみれば、淳悟さんは<凶悪なヒモ>ではなく普通であった。ただ、哀しげな愛嬌からは得体の知れない何かを感じ取ることができる。花は、部屋に入ると水を一気に飲み干し、そして淳悟さんの膝枕で寝てしまった。

淳悟さんは突然語りかけてきた・・

「花をほしいか」  「えっ」

・・・ほしいと思った。不思議とかきたてられるものがあった。

「やるよ、いつでも・・いつまでも一緒って訳じゃないんだ・・親子ってのは、きっと」

胡坐をかいた淳悟さんに絡み付いて眠る花の姿は、不思議と落ち着きのいい情景だった。けれども絡まっている二人のからだは、貧相に痩せてげっそりと暗い雰囲気に満ちていた。

「淳悟さんは、あの、お仕事は、なにか・・」 「なんにも・・」 「えっ」

聞き返すとおかしな顔をされた。淳悟さんは交代したんだといった。不思議な感覚に身の毛がよだつ・・

「淳悟さんは、いま、いったい何をしているんですか・・」

その問いに、煙草を燻らせ虚ろな瞳を閉じると、

「毎日・・・後悔・・」

と溜め息交じりの灰色の煙を長く細く吐いた・・・





何とも退廃的な雰囲気漂う描写ですが、これは第二章のシーン。
「毎日・・後悔・・」の台詞にワタシの涙は止まらなかった。もう何故だかわからない。

とにかく難しい話なのは確かだ。少なくとも中高生ではこの背徳感漲る情景をどう処理していいのか思いもつかないだろう。理解するにはある程度の人生経験が必要だと感じてしまう。
淳悟という男の孤独を浄化するのは花であって、それは実の子どもでもある。花はそれに気付いているかどうかはわからないが、淳悟を愛しているのだ。二人の屈折した愛情は血の繋がりと表現され、お互いがお互いを依存しながら生きてきた証でもあろう。みなしごの親子という言葉に深く傾倒せずにはいられない。

そしてこの小説の醍醐味は、時間を遡って各章が並べてあるという構成の妙であろう。
第一章で花と美郎の結婚が語られ、第二章は上記簡略的に抜粋された、結婚三年前に遡った美郎と花との出会いである。
第三章は美郎と出会う五年前、16歳の花を、北海道から追ってきた刑事から守る淳悟の話。
第四章は、花と淳悟が紋別から上京するきっかけになった殺人事件の話。
第五章は、さらに四年前に遡り、淳悟の恋人である小町に花との関係を感づかれる様子が語られ、
第六章で、そのさらに三年遡った奥尻島の津波で、9歳の花だけが助かり淳悟と出会う様子が描写されている。

2008年から1993年までを遡るという不思議な展開は新鮮であり、読者を飽きさせないだけでなく、より深く心に刻み込まれるような特別な効果も生み出しているようだ。

第一章でわからなかった淳悟や花のバックボーンが次の章で紐解け、そして次の章に移ると第一章での台詞に意味が吹き込まれていくのがわかったりするのだ。二人の関係が時間を遡るごと徐々に浮き彫りとなり、その度前の章や最初の章の深い意味に気付いていく・・・読み進めるうちに、何度も読み返すことになり、そうして蟠ったどろどろした情念がしだいに浄化されていっている・・・単純にできあがった物語の並びを変えるだけでは、こうはいかないだろうと思う。緻密な計算と伏線の妙は、著者の筆力とともに渾身の一冊として完成されたに違いないのだ。

ちょっと感動の度合いが強すぎて、えらく長々と書き殴ってる感がある(笑)

本の帯は難しい・・

愛は必然か

超コンパクトだけど、読んだらきっとわかってくれる!血の繋がりは時に恐ろしく温かいのだ。

私の男

私の男
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2011.06.21 / Top↑
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