小説レビュー その他もろもろとか。

市川拓司さんというと、真っ先に思い浮かぶのは『いま、会いにゆきます』だと思われます。
いま、会いにゆきます(ぴあ映画生活より)2004年映画化<竹内結子 中村獅童>

いま、会いにゆきます

まー『そのときは彼によろしく』『恋愛寫眞 もうひとつの物語』かもしれませんが。
※『恋愛寫眞』<松田龍平 広末涼子>2003年の映画・・・コラボした市川さんの小説とは別物です。市川さんの小説は『ただ、君を愛してる』のタイトルで2006年映画化<玉木 宏 宮崎あおい>
※ちなみに『そのときは彼によろしく』も2007年映画化<長澤まさみ 山田孝之>

そのときは彼によろしく(ぴあ映画生活より)ただ、君を愛してる(ぴあ映画生活より)
そのときは彼によろしく ただ、君を愛してる

イメージとしては純愛であったり、難病を扱ったり・・・すっごく美しく切ないイメージを想像するんじゃないかなって思います。

ところがどっこい。
この『世界中が雨だったら』は、今までと真逆(まぎゃく)のイメージであり、人間の汚れた部分や、男と女のキレイごとでは解決できないどろどろとした情念を扱ったりした中篇が三編収録されています。

タイトル買いだった人は驚いたしょうね(笑)切ない恋愛小説じゃない!
ワタシは解説から買ってるので「その気」でしたが、それでも結構なギャップがありました。
本の帯にも「ここにいるのは、もうひとりのぼくです」という紹介であり、「黒乙一」ではありませんが、作家としてこんな欲求もあったんだろうなーと共感を覚えました。
※白乙一/黒乙一とは、作家「乙一」の切なさや繊細さを扱う作品を白、残酷さや凄惨さを基調とした作品を黒と、商業的作戦でアピールしている言葉



わたしは後悔していた。
弟を引き止めることができたのは、おそらくわたしだけだっただろうから。
私は、彼の姉であり、母親であり、友人であり、恋人でもあった。
どんなに学校でつらいことがあっても、私と一緒の時間を過ごすことによって彼は日々をしのいでいた。
彼は、私と死の両極の狭間にいたはずなのに、いつのまにか、徐々に、徐々に死へと惹かれていったのだ。



事件の翌日、制服を着たひとりの少女が訪ねてきた。
弟の同級生であり、私は少し警戒した。いじめを否定できない仲間として気を許してはいけない。

少女は、

「残念でしたね」と言った。続けて

「逃げることだってできたのに・・・」と呟いた。

「逃げる?」私は聞き返す。

「そう、雨が降ったら、人は軒下に逃れます。それと同じこと」

「でも」と私は問い返す・・・

「世界中が雨だったら?」

それに対し少女は

「お姉さん、戸川くんと同じこと言うんですね」と切り返された。何故か胸がずきんと痛む。

「世界中が雨だったら・・・世界の外に逃げればいいんです・・・みんな小さな世界で生きてるけれど、その外があることを知らない」

「私、戸川くんのこと、好きでした」

少女は悲しそうに小さな笑みを浮かべていた・・・




これは文庫の解説でも取り上げられてたけど、ワタシもここが一番美しい場面だと感じた一節だ。
表題作の「世界中が雨だったら」からで、弟を失った心の揺れが痛切に感じられる。

男女の欲情に溺れ、肉欲にまみれつつ犯行に流されていく話や、殺人を犯した罪の恐怖が何度も襲ってくる心理描写などを取り上げ、確かに<市川拓司じゃない!>という感覚はワタシも感じる。それでも、小説の端々に美しい言葉を零しながら、紡ぎあげた物語にはやっぱり市川拓司らしさが光っているとも感じられるのだ。

まーグロい描写も、エロい描写も、ちょっと綺麗かな(笑)もっとやっちゃってもいいのに!とか思ったりもしましたよ。何か「あしたのジョー」の矢吹 丈が試合中に吐くゲロがキラキラしてる(笑)みたいな感じなんだなー。

ワタシとしては、やっぱり白基調に傾いている表題作の美しさが一番好きですね。

帯ならば、

孤独から見る外の世界に、雨は降るのだろうか

昨日の「うつくしい子ども」で難関だった<孤独>の答えとして「外の世界へ逃げる」という言葉が心に染み渡った。

世界中が雨だったら

世界中が雨だったら
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2011.06.17 / Top↑
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