小説レビュー その他もろもろとか。

夏の終わりに骨折してから6週間。まだバスがガンガン冷房かけてて、降りた直後にメガネが真っ白に曇ったという<ぶっ飛んだ>理由が、現在の堕落した生活の全てである。
ご近所はもう秋の様相を呈して、この労災生活に終止符を打とうと躍起になっているようだが

まだ労災の振り込みがあるわけでなく、貧乏極まりない生活でもあるわけで、毎日文字を書くことだけが許されている。

おやつは柿の種だ。
2013.10.11 / Top↑
2013年9月の読書メーター
読んだ本の数:20冊
読んだページ数:5794ページ
ナイス数:347ナイス

感応連鎖 (講談社文庫)感応連鎖 (講談社文庫)感想
あざとく透かした女の腹を、じんわりと媚びへつらう卑屈で誠実なまごころ物語。とにかく節子の達観にぞくぞくする。厭らしいまでの計算と強い想い・・・初美が思いつめる淫靡な理屈とやら・・・あるいは醜いメスの本性に感応する絵理香の舌・・・それぞれが見えない何かに突き動かされて、そうして由希子が連鎖へといざなってゆく。みんな自分のためだけに純粋なのだ。自分の心に誠実に向き合えばこそ、ぐいと触角が飛び出してしまうのだ。螺旋のように同じ光景を彷彿させる僅か数頁の結びは、現代の友だち親子に潜む呪縛を嘲笑するかのようで怖い。
読了日:9月29日 著者:朝倉かすみ

もいちどあなたにあいたいな (新潮文庫)もいちどあなたにあいたいな (新潮文庫)感想
時の経過とは残酷で、この口語体が両刃の剣であることを改めて実感させられる。久々に手に取った読者は、懐かしさと同時に卒業を迫られたであろう。物語はすこぶる面白いだけに、切なさにおそわれる。それは、80年代歌謡曲を当時の衣装で現代のアイドルが歌うようだからだ。個人的意見を言えば、話す言葉は時代を象徴するのだから、口語体そのものも変化するべきだったと。例えば『というか』は『ていうか』が日常なのだ。些細なことかもしれないけれど、初読の読者なら気付いてしまうだろう。ただ、それでも、往年のファンはきっと見守ってゆく。
読了日:9月28日 著者:新井素子

寡黙な死骸 みだらな弔い (中公文庫)寡黙な死骸 みだらな弔い (中公文庫)感想
11篇の物語は、時空を超えた接点を妖しく含みつつ静かに語られる。猟奇的、或いは内なる狂気を伴いながらも、決して声を荒げることなく淡々と、それでいて、語り部の扇情をときに俯瞰しながら、揺るがず同じトーンで弔いは執り行われるのだ。残酷な描写が散見するおどろおどろしさの感覚と、ファンタジーな、まるで夢物語のような感覚が同居する物語の連続・・・きっとこの小説は<大人のためのベットタイムストーリー>なのだろう。弔うという喪失と時間の経過のなかに、癒しとも、優しさともとれる余韻が実に心地よく、死に引き寄せられてゆく。
読了日:9月26日 著者:小川洋子


夏目家順路 (文春文庫)夏目家順路 (文春文庫)感想
朴訥な人柄が取り柄だった夏目清茂。その葬儀を中心に、彼の人生に触れた人たちそれぞれの想いが静かに交錯してゆく物語。ヒット作である『田村はまだか』が一般向けならば、こちらは同じ形態でも朝倉マニア向けの作品だろう。決め所のセリフ回しは独特のトゲがあり、その痛かゆい感覚はいつもどおり。ただ、この物語ではいつもよりさらに斜に構えていて、より韻と深みが感じられるのだ。お気に入りは最終章。参列者の心が透けてみえる読者には、荼毘に付す清茂への親近感に感情が高まるに違いない。すべてひっくるめ<鍵をする>ということだろう。
読了日:9月24日 著者:朝倉かすみ


月のしずく (文春文庫)月のしずく (文春文庫)感想
僅かに擦れ違う人々の末路を、哀切たっぷりに描く七篇の短篇集。どの作品も、偶然と必然の叙情を心の水面に浮き上がらせては沈ませてゆく。このキャンバスを彩る登場人物は、強がりで、エエ恰好しいで、それでいて脆く弱い。不思議と共感を覚えるのは、人が生きにくい世の中に於いて、身を賭す憧れと哀しみを愛おしいほどの思いやりで描かれているからであろう。たとえば『聖夜の肖像』での久子の刹那。たった一晩の肖像画の中に、久子のわだかまる心を氷解させる様々な奇蹟が描かれる。愛情と哀情を一括りにした筆致に、読者の雑念も昇華されよう。
読了日:9月22日 著者:浅田次郎


死にぞこないの青 (幻冬舎文庫)死にぞこないの青 (幻冬舎文庫)感想
人の悪意を体現し、その常軌を逸した行く末を見守る物語。主人公マサオの精神が徐々に退廃へと向かう姿は、執筆から十数年経つ今現在のいじめと、何ら変わりないリアルがある。教師からの理不尽な迫害、離れていく友人、家族に打ち明けられないジレンマなど、狂おしいほどの毎日が延々と続く描写・・・そうして自らを最下級の生き物として受け入れてしまう屈辱。それもいつしか虚無感によって支配されてしまうのだ。終盤、具現化したアオの悪意とマサオの葛藤に准えて、読者の理性が試されている。著者の出した解は<身の丈を知る>のようだが・・・
読了日:9月21日 著者:乙一


珈琲屋の人々 (双葉文庫)珈琲屋の人々 (双葉文庫)感想
寂れた商店街の一角に佇む『珈琲屋』が舞台。訪れる人々の希望が彷徨い、そして通り過ぎていく七篇の連作短篇集。登場人物の誰もが傷を抱えていて、それゆえ、人を殺めた経歴を持つ行介のもとへ自然と惹き寄せられていくというストーリー。過去に苛まれ、幸せを許さず、ときに自傷し、罪とは決して時間が解決をしないと戒める・・・『俺は殺人犯だ』というリフレインが耳障りであり、諦めと達観した人生観に酔う行介があまり好きになれない。無償に腹が立つ。それでも冬子の献身が少しずつ行介の心を氷解させてゆく様に、業の深さを思い知らされる。
読了日:9月19日 著者:池永陽


亡命者 ザ・ジョーカー (講談社文庫)亡命者 ザ・ジョーカー (講談社文庫)感想
ジョーカーの続編。的確な判断力と行動力、殺める瞬間の潔さなど、そのどれもが華麗で美しい。また一度使用した拳銃はすぐに処分したり、いくつもある隠し部屋の存在や車の手配など、ひとつひとつの描写にいちいち惚れてしまう。没個性と評されるレビューも散見するが、どうして躊躇せず引き金を引く場面など、安易なTVドラマよりかよっぽどリアリティーに溢れていると思う。敵も味方もない世界でその瞬間を生き抜く術とは、本物に対する敬意と礼儀であろう。引くべき所は引き、深追いはしない。冷徹な推理と行動すべてがジョーカーの個性なのだ。
読了日:9月17日 著者:大沢在昌


ザ・ジョーカー (講談社文庫)ザ・ジョーカー (講談社文庫)感想
孤高のトラブルシューターが大都会を暗躍する究極のハードボイルド。裏社会に潜む様々な組織に捉われず、淡々と目的を遂行していく『ジョーカー』が主人公。手段を選ばず、ときに近しい人間ですら殺めることを厭わない描写など、映し出される世界はもはや別次元だ。傭兵の過去と、先代から引き継いだ二代目ジョーカーを名乗るということ以外、彼を知る情報は何もないのだが、トランプゲームの七並べ・・・『つながらない数と数の間を埋める札は使った後は用がなく、そこに捨て置かれるか別の人間が使う』という比喩が、ほぼ彼のすべてを語っている。
読了日:9月17日 著者:大沢在昌


Rのつく月には気をつけよう (祥伝社文庫)Rのつく月には気をつけよう (祥伝社文庫)感想
わたし目線(夏美)で進めながら、長江(探偵役)が恋のかけ引きを紐解いていくというライトな安楽椅子ミステリー。基本は長江、熊井、夏美の三人にゲストを迎えての飲み会で、一話ごとにメインとなる酒と料理を紹介していくグルメな描写と、ゲストのささいな恋のすれ違いに『揚子江っ』とスイッチが入りお得意の推理を披露するといった定番物であり、グルメとミステリーをきっちり分けた二粒の旨みを読者に味あわせてくれる。最終章まで引っ張ったミスリードはご愛嬌といったところだが、重い推理小説の合間に楽しませてくれる貴重な一冊だと思う。
読了日:9月16日 著者:石持浅海


嫁の遺言 (講談社文庫)嫁の遺言 (講談社文庫)感想
過去の自分に決別し、これからの人生を漕ぎ出して行かんとする姿。そんなかつての生き様に、ケリをつけようとした心情のあとさきを丁寧に紡いだ七篇の短篇集。『あんた』と『窓の中の日曜日』がじんわりくる。孤高なギャンブラーであり続ける覚悟、母を想う娘であり続ける覚悟など、道端で咲く花の、その寂しさや儚さに隠された強い心根に、ふと気付く読者の心の奥に響く鐘の音は遠鳴りのように寄せては惹いてゆく。桔梗で染めた指の窓からみる郷愁に想い、それでも手を洗わなくてはと奮い立つ主人公たちに、少しばかり肩入れしたい気持ちになった。
読了日:9月14日 著者:加藤元


とるにたらないものもの (集英社文庫)とるにたらないものもの (集英社文庫)感想
なんてことないこと、あるいは日常生活のなかでうっかり埋もれてしまいそうな・・・そんな<とるにたらないもの>への筆者が感じる愛情がさらっと書きとめられている、何と云うかぼんやりエッセイ。共感するものや、不思議な感性の持ち主だと思うもの、呆れるものなど、様々なものや事例が紹介されるが、ワタシが共感したものは『ケーキ』の一節にみる筆者の喜びだ。無性に高揚する感覚は、今ほどスウィーツが街に溢れていなかった時代を過ごしたからだろう。同様な感覚に<雪の朝>もあるのだけれど、これは関東平野に住んでいるからなんだろうな。
読了日:9月13日 著者:江國香織


月島慕情 (文春文庫)月島慕情 (文春文庫)感想
人の心が持つ強さと弱さにそっと寄り添う珠玉の短篇集。七つの物語は、どれも頬につたう雫を禁じ得ない。風情であり粋であり、傷を秘めた心の内を覗かせる語り部たちに、筆者はこれでもかと試練を重ねてゆく。そうして残り数頁の結びに向かい、堰を切ったように溢れ出す哀しみを吐露させるのだから堪らない。これでは読者はたちまちやられてしまう。表題作『月島慕情』にみる主人公ミノの語らずの美学は、世知辛い時代を目蓋にじんわりとなびかせ『ばっかやろう』と爆ぜる行き場のない慕情を、しっとりとした胸の内に溶かしては消えてゆくのだから。
読了日:9月11日 著者:浅田次郎


田村はまだか (光文社文庫)田村はまだか (光文社文庫)
読了日:9月9日 著者:朝倉かすみ


1Q84 BOOK3〈10月‐12月〉後編 (新潮文庫)1Q84 BOOK3〈10月‐12月〉後編 (新潮文庫)感想
圧倒的な余韻だけを残し、新しい時間が動き出す結末。揶揄された様々な事象や宗教団体などもあるが、それはあくまでも飾り物に過ぎないのだろう。青豆と天吾とは選ばれたものであるが、ただの道具に過ぎなかったのかも知れない。その二人が1Q84年という時間の中で意思を持ち、あるいは気付き、芽生え、歪曲する世界、あるいは流れを変えていったのだろう。ただ、読む者それぞれの解釈があるべき作品であり、この物語自体にはさして深い意味合いはないのだろうとも思う。間違いないのは二人がたどり着いた先の虎の姿は反転しているということだ。
読了日:9月7日 著者:村上春樹


1Q84 BOOK3〈10月‐12月〉前編 (新潮文庫)1Q84 BOOK3〈10月‐12月〉前編 (新潮文庫)感想
牛河の足音が近づいてくる。NHKの集金人とは何を暗示するのか?そうして青豆が宿した小さき命が持つ意味は?息を飲むほどの偶然と擦れ違いの連続によって、物語は一気に加速してゆく。天吾と青豆は出会えるのか、出会ったとしてどこへ向かおうというのか?この続編ですべての謎が解けるわけではないのだろう・・・それでも二人には出会って欲しい。何かこの時間軸に変化を来たすとすれば、それ以外にありえない。助けて、タマル!
読了日:9月5日 著者:村上春樹


1Q84 BOOK2〈7月‐9月〉後編 (新潮文庫)1Q84 BOOK2〈7月‐9月〉後編 (新潮文庫)感想
抽象的な表現ではあるが、リトルピープルについて明かされている。それが何を意味し、この世界にどう関わるのかはわからない。それでも、月が二つ輝くこの世界はいままでの世界とはちがうのだ。リーダーの死と、オハライと、それは必要なことだとふかえりは云う。類をみないファンタジックな世界観と、霧がかかったような観念が同時に押し寄せ散ってゆく。多くの読者が謎を抱えたまま、僅かな希望を頼りに結末を感じたであろう・・・この一年後、まさか続編が出るとは!近代文学史最高の衝撃を伴いながら、1Q84Book3へ迷わず進む。
読了日:9月3日 著者:村上春樹


宣伝会議 2013年 10月号 [雑誌]宣伝会議 2013年 10月号 [雑誌]感想
第51回宣伝会議賞課題発表号。昨年度は協賛企業賞を受賞して東京国際フォーラムまでいそいそと出かけたけれど、今年はどこまで食い込めるか?
読了日:9月3日 著者:


1Q84 BOOK2〈7月‐9月〉前編 (新潮文庫)1Q84 BOOK2〈7月‐9月〉前編 (新潮文庫)感想
1Q84年、あるいは猫の町。天吾と青豆の幼少期における体験と記憶、屈折した愛の形など、引き合っているはずの二人が様々な悪意によって操作される。それは忍び寄るリトルピープルの存在と関係するものだろう、底知れぬふかえりの言葉と牛河から発せられる暗示。混沌とした霧の中を流されるまま、それでもさきがけのリーダーとの対峙によりジリジリと核心に迫る雰囲気。結構な長編のはずなのに、次々と放たれる謎と伏線に読む手が止まらない。
読了日:9月1日 著者:村上春樹


1Q84 BOOK1 <4月~6月> 文庫 前後編 2巻セット1Q84 BOOK1 <4月~6月> 文庫 前後編 2巻セット感想
主人公である青豆と天吾の分かつ時間が章ごとに交差して流れてゆく。小説のお手本のような三人称単視点(厳密には神目線があるから多視点だけど)で、読者に感情移入させないよう淡々と物語は進行してゆく。序盤早くも作者のミスリード・・・青豆が首都高三茶の非常階段を降りて1Q84年に偶然入ってしまったと読み違えたが、どうやら時系列的には天吾の<空気さなぎ>の改稿によってリトルピープルが影響を与えたということだろう。複雑極まりない構成と展開で、多くの謎を抱えたまま季節は夏の訪れを告げる。二人はこの後、出会えるのだろうか。
読了日:9月1日 著者:村上春樹



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2013.10.02 / Top↑