小説レビュー その他もろもろとか。

今日もじんわりと沁みる話。

古代ローマの習わし(バラの花を飾った部屋での会話は秘密にする)や、英語の『アンダー・ザ・ローズ』(バラの下で)には<内緒で、秘密に>という隠語である事柄に触れ、そこから薔薇(ばら)の濁点を取って<ばら→はら→腹>に引っ張り、消費税増税についての党首会談が『腹を割って話したのか?』という話題に持っていく・・・編集長様、今日も脱帽でごじゃりまする。

さらには、フランス元駐日大使で詩人のポールクローデルの作品から<薔薇曰く われをまもるもの 
そは刺ににあらずして 匂い>(山内善雄訳)を引き合いに出し、お互いに足を引っ張り合うトゲトゲしい関係から政策に花を咲かせる『匂い』を感じさせるのであれば密談も悪くないとまとめてくる。

もはや噺家の小話ではないが、言葉の持つ余韻に唸らされるばかりである。

時事問題に対しボキャブラリーの深さもさることながら、的確に『オチ』をつけ制限文字数きっかりに仕上げるこの<編集手帳>は本当すばらしい。1面片隅ではあるけれど、取っ付き難い話題であっても自然に心へ軽妙な笑みをもたらしてくれる。

こんな文章をさらっとまとめられる人を目指します!

読売編集手帳3/2
2012.03.02 / Top↑
2月の読書メーター
読んだ本の数:6冊
読んだページ数:2237ページ
ナイス数:299ナイス

ガリレオの苦悩 (文春文庫)ガリレオの苦悩 (文春文庫)
タイトル通り湯川准教授が苦悩する場面が印象的な一冊。実験検証を経て、科学的根拠を提示する往来のスタイルを保ちながら、今回どこか人間臭い感情を魅せる新たな側面が描かれ、ガリレオファンにとってはたまらない一冊であろう。最後に収められている『攪乱す』で、自分への評価を気にするあたりは読者としてほっとする瞬間でもある。その他、神秘的現象に興味を示したり恩師の意図を察して操られたりと、科学者として堅物な印象である湯川の人間らしさは興味深く、新たに加わった女性刑事への心憎い配慮なども湯川ならではの味わいがあっていい。
読了日:02月28日 著者:東野 圭吾
ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち (メディアワークス文庫)ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち (メディアワークス文庫)
古書というだけで高尚な雰囲気。無論著者直筆のサインやメッセージ入りであれば古書マニアにとってこの上ない宝物であるに違いない。物語に思い入れはあっても本自体には興味がないワタシにとって、ある意味新鮮な感覚に感じられた。以前の持ち主の想いまで考えたことなどいままでなかったからだ。この小説はそんな古書に纏わる著者の思いが存分に込められている。それにしても、狐の皮を被っているのは栞子さん。何気に純朴な大輔にはまだまだ手が届かないようだ。エピローグで、またまんまと栞子さんの術中に嵌っているとも知らずに大輔くんたら。
読了日:02月21日 著者:三上 延
電子の星 池袋ウエストゲートパークIV (文春文庫)電子の星 池袋ウエストゲートパークIV (文春文庫)
安定したシリーズ。マコトに舞い込む事件は、その鋭い洞察力によるものだろう。何気なく見落としてしまう出来事であってもそこに何かを見出そうとするから。今回四篇の作品中気になったのは『ワルツフォーベビー』。ビルエヴァンスの原曲を知っていることもあって物語は深く優しく心を満たしてくれた。知りたい過去、知らなくてもよい過去・・・生きていると人間必ず一つや二つのドラマを抱えて生きている。そういう『情』に長けているマコトにだからこそ打ち明けられる真実があるのだろう。ぐっと噛みしめる夜にマコトと一度話をしてみたいと思う。
読了日:02月21日 著者:石田 衣良
ガール・ミーツ・ガール (光文社文庫)ガール・ミーツ・ガール (光文社文庫)
音楽好きにとっては興味深い物語。前作『疾風ガール』の後日譚のようであり、天才ギタリスト夏美のメジャーまでの道のりが画かれている。ことさら音に対するこだわりが半端なく、バンドサウンドと打ち込みの違いや<売るための仕掛け>など、夢と現実をあからさまに曝け出して現代ミュージックシーンを暴露する。きっと自分の音楽性やこだわりなどと隔たりのある作品を世に送り出す人も多いのだろう。作られたシンガーに埋もれる中、ヴォーカリストとして自分を出せるミュージシャンは幸せかも知れない。そんな出来事を尻目に今回も夏美は突っ走る。
読了日:02月17日 著者:誉田 哲也
オーデュボンの祈り (新潮文庫)オーデュボンの祈り (新潮文庫)
独特の世界観に圧倒・・・ファンタジックな設定がミステリーの枠組みを超えて楽しませてくれる。ただこの閉鎖的な孤島を現代社会に置き換えてみると、そのシュールな超現実的怖さに読者は気づかされる。未来を知る事とは死と隣り合わせの心理に導かれることなのだ。先を知るものとして身勝手な人間に頼られ、時として糾弾される・・・そんな<案山子の優午>という存在は、人間の心の奥底に眠る希望と悪意ではなかろうか。物語の内面を窺い知ろうとすると深みに嵌る・・・物語の温かい結末に騙されそうだが、やはり未来は知るべきではないのだろう。
読了日:02月13日 著者:伊坂 幸太郎
太陽の坐る場所 (文春文庫)太陽の坐る場所 (文春文庫)
鬱積した高校時代の思いが、それぞれの光と影を映し出す。俯瞰する描写、決して見せない己の内面など、28歳という社会人としての賢さとズルさが心に刺さり止まない。ドロドロとした心情の吐露に何故こうも心が震えてしまうのか・・・何に対してこの悪意に満ちた思いを自分に置き換えてしまうのか・・・きっと誰にも知られたくない自らの醜態とは、こんなにも辛辣厳しい言葉と成り得るのだろう。それでも太陽は私たちを照らしてくれる。その太陽は10年の歳月をかけ岩戸の隙間から一筋の希望として差し込み、冷え切った心を氷解させてくれるのだ。
読了日:02月01日 著者:辻村 深月

2012年2月の読書メーターまとめ詳細
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