小説レビュー その他もろもろとか。

ワタシはほぼ毎日被災地から発信されているブログに目を通している。被災地の状況などは、TVよりか体験している人の言葉に触れたほうが正確だと思うからだ。報道は時にウソをつくし心理操作もある。被災地からの文脈に潜む言葉と言葉の狭間に、悲しみや希望の空気感を読み取ることが真実に近づく術だと思っている。

知って、それからどうするかはまだ見えていない。何もできないかも知れないし、今後役に立つ何かができるかも知れない。今は被災地の人も、非被災地の人も、自分を信じて行動に移している段階だと思う。あるものは普通に仕事をすることが大事だと思い、ある人は観光したり被災地の特産品を購入したりすることが大事と説く。もちろんGWを機にボランティアとして被災地で汗を流す人も、自分の信念に基づいていると思う。未だ身内を探し、悲しみに暮れている人も、新たな生活に向けて移住したり、仕事に復帰したり、気持ちの切り替えはストレスとの戦いかも知れないけれど、前を向いてあるこうという意志が、読んでいるブログからは感じられる。
良かったら是非ブログを見て下さい↓↓
名取市閖上(ゆりあげ)復興支援のブログ

ブログを見る限り、海岸に沿った地域は未だ復興にはほど遠い印象を受ける。少しずつではあるけれど、瓦礫の撤去は進み、被災者への補助金であったりとかの役所受付も始まっているようだけれど、宮城内陸との差ですら歴然だと思われる。これが被災地の現実であり、まだまだワタシの知らない現実は沢山あるであろう。

ではここ埼玉県はどうだろう。
ワタシの住むさいたま市は、震災後計画停電があったにせよ日常生活はほぼ平常に近く戻っている。近所の屋根を見ると、瓦が落ちてブルーシートで数箇所覆われた家屋をポツポツ散見し、スーパーの電球が節電のため点いていなかったり、エレベーターが一部止まっていたりはするけれどまるで気にならない。一時スーパーの店頭から消えた牛乳や納豆は普通に並んでいる し、映画館もようやく全館復帰した。大宮駅から北に向かう新幹線も戻ったし、東北に拠点があった企業や(自動車産業)建築資材(建設業)など被害を受けた企業はあれど、街で見る景色は普通だ。原発を除いては。

震災後の屋根の姿

原発問題についてはTVでお馴染みの武田先生のブログ?をよく見ている。(明石家さんま・ほんまでっかTVとか)
武田邦彦 (中部大学)
まーこの先生をどこまで信用すべきかも問題なんだけど、その思考に至る経緯は共感できるところもある。例えば放射性物質の影響を受けた野菜の問題がある。武田先生は「安全と認可された野菜もだめだ」と説いている。安全だと検査したものは安全ではないから検査された対象だったということで、人の親であれば少しでも影響を受けた食品をこどもに食べさせたいなどと思うわけがないという理論だ。
風評被害についても共感できる。「放射性物質の影響をクリアして出荷された野菜を買わないことは決して風評被害ではない。消費者が選んだ結果が福島の野菜を選ばなかったということで、それは消費者の権利である」と説いている。これには国、あるいは政府が正確な情報を提供することが前提であるとも記されているが、簡単に言うと影響を全く受けていない関西の野菜と福島の野菜が並んだら、関西の野菜を選ぶのは人間として当然であり、身を危険に晒すことは必要ないということだ。 福島や近隣農家の感情を逆撫でする発言だけれども、震災や原発被害としてすべてを諦めて、国がすべてを被って全部保障すればいいという考え方だ。
福島の野菜をこれ見よがしに食べて見せ、安全だから給食で使用するとは、食べたくない自由がほとんど認められないこどもに対する冒涜でしかないと断罪しているのである。

発言が神懸り的なところもあるのですべて鵜呑みにはしないけれども、考え方のひとつとしてとても参考になると思っている。最終的には自分の判断がすべてではあるけれど。

とまぁ、被災地の状況と、非被災地埼玉県ではこうも置かれている状況が違ってしまっている。もともと被災してないんだから当たり前なんだけど、TVでは震災情報は放送枠が少なく、そのほとんどが原発の進捗状況だ。果たして東北のTV局がどれほど関東首都圏のTVを流しているかわからないけれども、その温度差は相当なものと感じる。仕方のないことかもしれないけれど、もし被災地の人が逆にその他の地方はどうなってるのだろうと思ったときに、関東ではこんなですよっていうひとつの情報になったらよいかと思い、ワタシの身の回り状況をさらっとまとめてみました。

もしも、どこかで、万が一にもこの記事を読んでくださったら、一個人の情報ですが、心の隅に留めてみてください。
2011.04.30 / Top↑
mityururu

【ラットマン (光文社文庫)/道尾 秀介】これは叙述トリックの極みか!?こっ酷く騙されるというのはこのことだろう。マトリョーシカ人形の如く、何度となく裏切った姿をみせる。そして最後に見つけた小さな人形... http://bit.ly/mx6SAX #bookmeter
04-28 16:12

2011.04.29 / Top↑
今回はまずこちらを見て欲しい。

錯視図形(エドワード・エーデルソン教授)

これはマサチューセッツ工科大学のエドワードエーデルソン教授が作成した「錯視図形」だ。
よくわかんないと思うけど、Aのマス目とBのマス目の色が同じであるという、目の錯覚を誘発する「騙し絵」のようなものである。

同じようにこれは、
ラットマンの絵

有名な「ラットマン」の絵である。
これは人の顔を左から順番に見ていくと一番右の絵がおじさんに見える動物の絵を左から順番に見ていくと上の絵と全く同じはずなのに、なんとねずみに見えてしまうというこれもある種「騙し絵」といえるであろう。

今回読んだ「ラットマン」はこの騙し絵に準えた小説である。思い違いから心のすれ違いを生み、思いもよらない結末へと翻弄される主人公同様、読者もまた著者の策略にハマってしまうのだ。




姫川亮は幼少のころ姉を亡くしている。その事故は今もって姫川の心に燻る出来事であった。姉の死は事故ではない・・・殺されたのだ。そしてその犯人を姫川は知っている。そのことは誰にも話していない。勿論担当した刑事さんにもだ。その事故から20年以上経った今なお姫川は思う。父が、父がまだ生きていたなら、あなたは間違っていたと大声を上げて断罪するであろう。

姫川は高校の同級とバンド活動を続けている。メンバーは竹内と谷尾、それと恋人である小野木ひかりの妹である桂と4人でバンド名は「Sundowner」という。エアロスミスのコピーとオリジナルと半々くらいの持ち曲で、年2回ほどライブも行なっている。当初バンドのドラムは姉のひかりが担当していたのだが、2年前から妹の桂に交代した。ひかりが妹とドラムを変わることに異論はでなかった。桂は姉以上にドラムセンスに長けていたのである。そうしてひかりはそのまま姫川らが使うスタジオで働くことになった。

その日バンドの練習で訪れたスタジオで、姫川はひかりに堕胎に必要なお金を手渡した。彼女がそうすると決意したのだ。手渡されたお金をポケットにしまい、ひかりは姫川と別れると言い出した。「あなたは妹の桂を好きなんじゃない?」姫川は苛つきながら切り返した。「別れるのはその子の父親が理由じゃないのか?」対するひかりは「父親はあなたじゃない」姫川も負けてはいない「俺を馬鹿にするなよ」・・・
そう、姫川の避妊は完璧であった。どう考えても腑に落ちないのである。

その数時間後、ひかりの死体はスタジオのアンプの下から発見された。発見者の中には姫川の姿もあった。姫川はもう動かなくなったひかりを見つめながら考えていた・・・「自分は父親と同じ事をしたんだ」

呪われた想いは姫川の心を弄び、奈落へと導いていく・・・




叙述トリックをこれでもかと駆使する著者は、今回ちゃんと内容にもトリックが効いている。今までは読んでいる読者だけが著者の罠に引っ掛けられているようで、どうにもしっくりしないことが多々あった。確かに今回も読者を引っ掛けようとして、小ざかしい手をいくつも繰り出しているものの、ちゃんと登場人物たちが思い違いに踊らされている。これはすごい!しかも後半につれ残りページ数が少ないにもかかわらず、読者は何度も騙され続けるのだ。
まるでマトリョーシカ人形(ロシアの伝統人形)のような入子構造の如く、蓋を開ければまた別の人形が、その人形の中にはまた別の人形が・・のように、これで終わり?これで終わり?と何度となく騙される。そうして事件の核心にようやく辿り着いた時、著者が掲げる親子の愛を纏う、小さな希望を抱えた人形に出会えるのだ。
マトリョーシカ人形
「向日葵の咲かない夏」では残忍さに辟易し、「ソロモンの犬」では読者を欺く叙述トリックの醜さに失望した。しかし今回は賞賛に値する会心作に間違いない。「シャドウ」で絶賛したワタシだけれど、その「シャドウ」を軽く凌駕する勢いを本作では感じるのだ。
著者の道尾さんは、遂に直木賞を受賞した人気作家さんだ。酷評をしたこともあるけれど、実は彼のツイートのフォロワーになっているワタシ。結構好きなのである(笑)
希望があるとすれば、人物描写をもっと掘り下げて欲しいと思っている。絶対に興味深い人間を創造するに違いないのだ。思い切って1000ページを超えるような超長編にチャレンジして、じっくりと人間の心理なども掘り下げてみたら、文藝界殿堂入りすること間違いなしだとワタシは思っている。

人の記憶は虚構の狭間で色を失っていく。それでも心の奥底で真実は絶えず光を放っているのだ。

なんか哲学的だなー・・・

ラットマン

ラットマン
2011.04.29 / Top↑